良質な手順書の作り方【3つおさえればOK:①背景/目的②概要③利用想定】
2020/08/01 / 2022/04/11

先日、知り合いとこんなことが話題になったので記事にします。

業務引き継ぎを行うために、手順書(マニュアル)を作成することになったんだけど、何に気をつけて作ればいいんだろう?
私の職場では、よく「わかりにくい手順書」に遭遇します。最新化されていなく、ウソが書いてあったり、読みにくかったり…。
実は、手順書やマニュアルは3つのことに気をつけると読みやすくなります。それは、「①背景/目的」「②概要」「③利用想定」をしっかり書くことです。
本記事では、3つのポイントを使ったおすすめの手順書の書き方を紹介します。
具体的にはこんなことを書いていきます!
- 手順書の基礎知識
- 手順書の考え方
- 手順書に盛り込むと良い情報
それではいきます。
目次
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手順書の基礎知識

手順書に関する基礎知識を説明します。
手順書とは?
業務や作業を行う手順を文書化して、どの作業者でも同じ質の作業を実行することができるように、内容が明確化されたもの。マニュアルの一種で、作業計画書、作業手順書とも呼ばれる。
手順書-Wikipedia
一般的な「手順書」の定義はこんな感じだと思います。
本記事では、手順書の意味を大きく捉えて、「目的を達成するために必要な情報をまとめたもの」を手順書と呼びます。
手順書を作るメリット・デメリット
メリット
メリットはこんな感じです。
- みんなの作業の進め方を統一できる(業務フローの標準化)
- この人しか作業方法がワカラナイという状況を打破できる(脱・属人化)
- 新しく入ってきた新人さんに教える手間が省ける
「この作業は、昔からいる人しかやり方知らないんだよね…」という状況を防ぐのが主な目的です。
デメリット
デメリットはこんな感じです。
- 手順書が古くなって運用しなくなる(形骸化)
- 例外に対応できなくなる人財が増える可能性がある
- 繰り返し行う業務でない場合、手順化できない
上記のうち、上二つのデメリットは本記事を読めば、解消できるはずです。3つ目のデメリットはこの記事で説明しきるのは、チョット難しいので、本記事では触れません。
手順書を作る目的

手順書の目的は「作業目的を達成できること」です。
つまり、手順書は間違えたことを書いていてもいいし、情報が足りなくても大丈夫だと思っています。
「手順書を読めば、目的を達成できる」ということが重要です。
あるべき手順書の形
2つの指標があると思います。
- 作業者は、手順書を読めば、目的を達成(作業を完了)できる可能性が高い(再現性)
- 手順書が古くなった時に、手順書を修正・追記できる(保守性)
この二つが優れている手順書が「あるべき手順書」だと思います。
ここで注意です。
本記事では、「再現性」と「保守性」というキーワードがたくさん出てきます。重要語句なので、覚えてくださいね。
よくある勘違いですが、手順書はルールではありません。ルールがある場合は、手順書と別にまとめておきましょう。手順書があっても、基本は臨機応変でOKだと思います。
ただし、薬品の分量や、お客様のデータを扱う時など、絶対に失敗できない作業の場合は、「手順書に載っていないことは必ず上司に報告する」ように、ハッキリ手順書に記述しておいた方が良いです。
手順書に必要な情報

以下の情報があると良いと思います。
- 背景・目的・・・手順書を作成した理由や、達成したい成果など【超重要】
- 概要・・・手順書の大まかな内容
- 利用想定・・・誰が読むのか、何の作業に使うのか、どこの部署で使うのか【超重要】
上記の3つの情報があると、「読み手は、手順書が作成される経緯や、書き手の意図をくみ取る」ことができるようになります。
なぜ手順書にこの3つの情報が必要か
繰り返しますが、3つの情報があると「読み手は、手順書が作成された経緯や、書き手の意図をくみ取る」ことができます。すると、読み手に以下のような現象がおきます。
- 手順書がスムーズ頭に入るようになる(→再現性向上)
- 手順書を読んで、書き手の意図を察して、足りない情報が推測できる(→再現性&保守性向上)
- 読み手は、手順書を修正することができる(→保守性向上)
考えてみると、背景や目的、利用想定(使用用途)などがわかっていると、作業をしやすいのは当然ですよね。以下では身近な例を示します。
おつかいの例
上司が新人ちゃんにおつかいを頼む例で説明します。
だめな例

新人ちゃん、豚肉とにんじんと玉ねぎ買ってきてもらっていい??領収書ももらっておいてね!

はーい!
(あれ、にんじん何本買えばいいんだ?たまねぎ何個?豚肉って、細切れでいいの?何グラム?よく考えると、このおつかいの意味って?この人何言ってるかよくわかんないな…!)
これは、背景も目的も利用想定も伝えなかった例です。新人ちゃんは、きっと正しい買い物ができないでしょう。つまり、再現性が低いということになります。
よい例

新人ちゃん、おつかいお願いしてもいいかな?
社内のレクで20人分カレーを作るんだけど、豚肉とにんじんと玉ねぎが1つもないので、買ってきてもらっていいかい??
分量は、任せたよ、領収書だけもらっておいてね。

わかりましたー!
(豚肉4パック、にんじん5本、玉ねぎ6個くらい買えばいいかな?多いかも?でもまあ余ったら貰って家に持って帰ればいいし、こんなもんでいいでしょ。)
これは、背景や目的、利用想定を伝えた例です。
ここまで伝えておけば、新人ちゃんは、上司の意図をくみ取って、自分で考えておつかいに行けますね。量に過不足はあれど、20人分カレーを作るという目的は達成できると思います。これなら再現性は高いといえますね。
しかも、新人ちゃんからこんな提案もできます。

あの、お節介だったら、スミマセン。カレーのルーとかはすでにあるってことですよね。皿とか、スプーンは足りそうですか??あと、福神漬けとかあったほうがよいです??

ルーと皿とスプーンは、足りるから大丈夫!じゃあ、福神漬けもお願いしてもいいかな?
このように部下からフィードバックを得ることができますので、カレー(成果物)の品質も上がっていきます。
手順書も同じで、例えば上司が書いた手順書を読んで、読んだ部下はわかりにくい部分を修正したり、追記してくれるようになります。保守性が高まるということですね。
ただし、普段から、上司に意見を言ったり、積極的に手順書を修正したりするように教育しておく必要はありますが…。この辺りは手順書だけではなくて、上司力も必要ですね。
では、具体的に3つの情報にはどのようなことを書けばいいか解説していきます。
背景・目的
「背景・目的」はこの2つをあらかじめ定義しましょう
- 手順書で何がしたいか
- なぜこの手順書が作成されたか
目指すべきゴールの意識を統一しなければ、再現性は低下するので、目的はしっかり書きましょう。

上記は、背景・目的の例です。「決算処理」を行う手順書であることがわかります。
概要
「概要」は手順書の内容を簡単にまとめたものです。3行くらいでササっとわかりやすく書いてあげましょう。

上記は、概要の例です。何のシステムを使って、どんな作業をするかざっくり書かれています。
利用想定
具体的には、以下のようなものを「利用想定」と呼びます。
- どこの部署で使うか
- 誰が読むか
- いつ使うか
- どんな作業に使うか

上記は、利用想定の例です。どの時期にどの部署で使われているか書かれています。
利用想定が大事な理由
手順書の保守性を司る項目です。「手順書を修正しよう!」となったときに、まず読む部分が「利用想定」です。
「利用想定」は蔑ろにされがちですが、最重要項目の一つです。
なぜ重要か説明します。
まず、手順書を修正するときに、ネックになるのが以下です。
手順書をメンテするときあるある
- 手順書を修正したいんだけど、誰が使っているかよくわからないから修正できない…。
- 手順書を修正したい箇所があるんだけど、何の作業に使われているかわからないから修正できない…。
- いつ使われているのかわからない、謎の手順書があるんだけど、どうしよう…。
つまり、以下の現象が起きるということです。
- 手順書を修正したい
- どのくらい影響があるかわからない
- ウカツに修正できない
- 手順書が形骸化して終了
したがって、手順書には、どの範囲に影響を与えるか(スコープ)を定義する必要があります。
スコープを定義する項目が、利用想定になります。
手順書の品質を向上させる知識(+アルファで品質UP!!)

以下の知識があると、手順書の品質は上がると思います。慣れてきたら、意識してみましょう。
- トレーサビリティ(追跡可能性)
- IPO※アイポと読みます
トレーサビリティ(追跡可能性)
トレーサビリティとは、過程や来歴などが追跡可能である状態のこと。
トレーサビリティ-eWords
つまり、参考にした情報や、外部参照が必要な資料がある場合、書籍の名前や、資料のありかや、リンクなどを載せておきましょう、ということです。
全ての情報について、「誰が言ったのか」「どの媒体に書いてあったのか」「誰が書いたのか」などのログが追跡できる状態になっていると、再現性・保守性が高まると思います。
IPO(INPUT PROCESS OUTPUT)
これは「成果(OUTPUT)を作成するためには、どんな道具や情報(INPUT)が必要か。また、どのようなプロセス(PROCESS)で成果(OUTPUT)を生み出すか整理しよう」という考え方のことです。
この3つを盛り込むと、再現性が高まると思います。
ポイント
INPUT・・・準備する道具を記述すること
PROCESS・・・作業手順を記述すること
OUTPUT・・・目的を記述すること
ちなみにIPOは設計書などに使われる考え方です。興味がある方はどうぞ。
手順書の作り方

ここまででは、手順書を作成するための基礎知識を記述してきました。
あとは、見出しに沿って手順書を作成していくだけですね。おすすめの見出しはこんな感じです。
- 背景・目的
- 概要
- 利用想定
- 必要なもの
- 注意点
- 手順
- 参考文献
ここまで読めば、再現性・保守性が高い手順書が作成できると思います。
手順書を作成する際のポイント
「6.手順」は、基本的に、ある程度適当でも大丈夫です。
「1.背景・目的」「3.利用想定」、「4.必要なもの」あたりを丁寧に書いておけば、あとは読み手がうまく解釈してくれます。
注意:ミスってはいけない手順書の場合
ミスってはいけない手順の手順書を記載する場合は、「6.手順」もゲンミツに記載してください。薬品や個人情報を扱うもの、危険な作業などです。
さらに、「5.注意点」項目に、「もしわからないことがあれば必ず上司に相談すること」などの記載をした上で、上司は、「この手順書はミスってはいけないのでわからないことがあれば上司に確認すること」と、普段から作業者に啓蒙しておく必要があります。
手順書のサンプル
本記事の内容を盛り込んで、サンプルの手順書を作成しました。
この記事では書いていない、細かい話を書いています。
- 手順書にオススメな読みやすいフォント
- 手順書を読みやすくするオブジェクトの使い方
興味がある方は、ダウンロードしてみてください。
まとめ
手順書は、手順そのものではだけでなくて、以下の3つの情報を盛り込むことで、品質の高い手順書を作成できます。
3つの情報
- 背景・目的
- 概要
- 利用想定
また、ここでいう品質とは、「再現性」と「保守性」になります。本記事を読んで、より品質を向上させるためのアイデアがあればどんどん試していくのが良いと思います。
参考文献と追加の考察
本記事を作成するにあたって、『あるべきマニュアル像』という記事も参考にしました。本記事の主張と近い(ほぼ同じ?)です。
こちらの記事の方が読みやすいかもなので、本記事を読んでも腑に落ちなかった方や、深く知識をつけたい方は、ぜひ上記の記事を読んでください。
特に「2-2 いい加減,適当でいい」章は必見です。私は、これが一番大切だと思います。
「いいかげん/適当」でいい理由は、そもそも手順書は書き上げた瞬間から情報が古くなっていき、日が経つと、事実とは異なる情報になってしまうという性質があるからです。つまり、そもそも手順書の内容は間違えていると考えて作業するべきだと思います。
本記事は、何度も繰り返していますが、以下の2つを軸に解説しています。
- 「いい加減/適当」に書いた手順書でも、読み手が曖昧な部分を補完・類推して内容を解釈できる手順書を作成できること(再現性)
- 「いい加減/適当」な部分は、読み手が修正・追記して、改善できること(保守性)
わかりにくい部分もあるかもしれませんが、本記事や上記で紹介した記事を、何度か読んで、実際に手順書を作成して、作業者の反応を見つつ改善していくと、品質が高い手順書を作成できるようになると思います。
紹介
マニュアル作成代行会社について
ちなみに、マニュアル作成代行会社なんてものがあるようです。
忙しくてなかなか手順化も進まないと思います。手順書の作成で残業・休日出勤が重なるくらいなら、外注してしまった方が、品質も高いと思いますし、社員の幸福度も高くて、良いかもしれないですね。
以下の業者に頼むと、現地まできてくれて、写真とか撮ってくれて、マニュアルを作成してくれるようです。
※「102ヶ国語」「外国人が〜」と書いてありますが、日本人だけの職場でも全然大丈夫だと思います。

外注してしまえば、業者さんが手順書をメンテしてくれるので、ほっといても保守性が高いです。なので、「利用想定」とか、小難しい概念は不要なんですよね…。
正直、お金があれば、上記が一番いいと思います。
マニュアル作成ツールについて
こちらは、マニュアル作成ツールです。私は、Excelでいいと思いますが、以下も便利そうなので、見てみてください。

さいごに
わからない部分がありましたら、コメントをお願いいたします。
長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。